前回(こちら)は、群と環と体の定義を述べました。
今回は、その具体例として、剰余群や剰余環を考えていきます。
状況の設定と定義
前回、群の定義をするために「整数の集合$\mathbb{Z}$」を考えました。これに対し、「素数$p$で割った余り」を考えます。例えば$p=5$とすると以下の5つの分類が生じます。
- 5で割って0余る数(…,0,5,10,15,…): $\bar{0}$
- 5で割って1余る数(…,1,6,11,16,…): $\bar{1}$
- 5で割って2余る数(…,2,7,12,17,…): $\bar{2}$
- 5で割って3余る数(…,3,8,13,18,…): $\bar{3}$
- 5で割って4余る数(…,4,9,14,19,…): $\bar{4}$
これらに対して「足し算」を定義したいのですが、例えば$\bar{1}+\bar{2}$を考えようと思います。$\bar{1}$は「5で割って1余る数すべて」の集合、などとと考えられるのでどうすればうまいこと足し算を定義できるかと悩みます。が、「5で割って1余る数」と「5で割って2余る数」をなんでもいいのでとってきて、それらを足し合わせると必ず「5で割って3余る数」になります。
\begin{align}(5m+1)+(5m+2)=5(m+n)+3\end{align}
よって$\bar{1}+\bar{2}=\bar{3}$と定義されます。(上のチェックは、well-defined性のチェックとなります。)
以下、面倒なので$1+2\equiv3\ (mod\ 5)$のように書きます。こうしてできる群を剰余群$\mathbb{Z}/5\mathbb{Z}$といいます。一般には
整数$\mathbb{Z}$の元を$p$で割った余り$0,1,2,…,p-1$を考える。これらに対し、「$p$で割って$r_1$余る数と$r_2$余る数を足すと余り$r_1+r_2$の数になる」ということで入れた足し算の演算を考えることで群になる。これを剰余群$\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$という。
\begin{align}
(np+r_1)+(mp+r_2)&=(m+n)p+(r_1+r_2)\\
(\Rightarrow \overline{r_1}+\overline{r_2}&=\overline{r_1+r_2})
\end{align}
上の記号の意味について、「$p\mathbb{Z}$」が$p\times 整数$ということで、$p$の倍数の集合。「$~/p\mathbb{Z}$」は、「$~+(pの倍数)$」をすべて同一視する。($0+p\mathbb{Z}=\{…,-p,0,p,…\}$、$1+p\mathbb{Z}=\{…,1-p,1,1+p,…\}$、$2+p\mathbb{Z}=\{…,2-p,2,2+p,…\}$、…)という意味です。
剰余環と体
剰余群$\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$に対して、同じく積「$\times$」を考えると、剰余環になります。
例えば$p=7$として
\begin{align}1\times4\equiv5,\ \ \ 4\times6\equiv 24\equiv 3,\ \ \ 3\times2\equiv 6,…(\rm{mod}\ 7)
\end{align}などとなります。
しかし、実はもっと言えることがあり…。
ここでは$p$は素数と仮定しました。そうすると、$\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$は体になります。特に$\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$から、$+$の単位元$0$を取り除いた$(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}=(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})\backslash0$は、積に関する群となっています。積に関して0以外の元には逆元があるということです。例えば$p=7$だったら
- $1\to1\times1\equiv1(mod\ 7)\to$積$\times$の逆元は1
- $2\to2\times4\equiv8\equiv1(mod\ 7)\to$積$\times$の逆元は4
- $3\to3\times5\equiv15\equiv1(mod\ 7)\to$積$\times$の逆元は5
- $4\to4\times2\equiv8\equiv1(mod\ 7)\to$積$\times$の逆元は2
- $5\to5\times3\equiv8\equiv1(mod\ 7)\to$積$\times$の逆元は3
- $6\to6\times6\equiv36\equiv1(mod\ 7)\to$積$\times$の逆元は6
となり、積$\times$について逆元があります。
(一般の$p$について、$(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}$が群になることの証明)
$(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}$の元$q$について、積の逆元があるかを見る。つまり
\begin{align}
qn\equiv1(mod\ p)
\end{align}
なる数$n$があるかどうかを調べる。つまり
\begin{align}
qn&=1+(-m)p\\
nq+mp&=1\\
\end{align}
を満たす整数$m$、$n$があることを調べればよい。
ここで、$p$は素数であり、$q$は$1$から$p-1$のうちどれかゆえ、$p$と$q$の最大公約数は必ず1になる。そのような時、方程式$nq+mp=1$の整数解$(m,n)$は必ず存在することが知られる。(具体的にはユークリッドの互除法を用いる。)
よって、そのような$n$をとってくれば$qn\equiv1(mod\ p)$となる。よって以上から、$(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})$は体になる。
巡回群と位数
$(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}$の性質についてもっと調べていきます。$(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}=\{1,2,…,p-1\}$は、ある元$a$を取り出して、それを何回もかける($a,a^2,a^3,a^4,….$)ことで、$(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}$のすべての元を得られるという性質を持っています。例えば$p=7$であったら、$a=3$とすると
\begin{align}
3^1&\equiv3(mod\ 7)\\
3^2&\equiv9\equiv2(mod\ 7)\\
3^3&\equiv2\cdot3\equiv6(mod\ 7)\\
3^4&\equiv6\cdot3\equiv18\equiv4(mod\ 7)\\
3^5&\equiv4\cdot3\equiv12\equiv5(mod\ 7)\\
3^6&\equiv5\cdot3\equiv15\equiv1(mod\ 7)\\
(3^7&\equiv1\cdot3\equiv9\equiv2(mod\ 7))
\end{align}
より、$(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}=\{3^1,3^2,3^3,3^4,3^5,3^6\}$といえます。($3^8,3^9,…$と続くと、上の$3,2,6,4,5,1,3,2,6,4,5,1,…$をループします。)
このように、群$G$があるとき、ある1つの元$a$をとって、それをどんどん演算していく($a,a^2,a^3,…$)ことでその群のすべての元を得られるとき、その群を巡回群といいます。
しかし、一般にとってくる元$a$は何でもいいというわけではありません。例えば$p=7$の例で$a=2$をとると。
\begin{align}
2^1&\equiv2(mod\ 7)\\
2^2&\equiv4(mod\ 7)\\
2^3&\equiv8\equiv6(mod\ 7)\\
(2^4&\equiv16\equiv2(mod\ 7))
\end{align}
となり、$\{2,4,1\}$しか出てきません。
特に、$2$に関して、3回かけることで初めて1になります。このように、$n$回同じものをかける(演算する)ことで初めて$1$(単位元)になるとき、その数の位数が$n$であるといいます。$p=7$の$(\mathbb{Z}/7\mathbb{Z})^{\times}$を例にとると、$3$の位数は$6$、$2$の位数は$3$です。
この位数は、群の集合としての要素数(例えば$(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}=\{1,2,…,p-1\}$であれば要素数は$|(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}|=p-1$)を$n$とすると、$n$の約数しかありえません。例えば、$(\mathbb{Z}/7\mathbb{Z})^{\times}$において、2の位数は3、3の位数は6でともに$|(\mathbb{Z}/7\mathbb{Z})^{\times}|=6$の約数です。
$(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}$の各数の位数が$|(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}|$の約数になる説明
$(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}$は巡回群であることを使うと、ある元$a$を使って、$(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}$のすべての元は$a^n$の形で表せます。$a^0=1,a^1,a^2,a^3,…,a^{p-2}$が$(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}$のすべての元をさらい、$a^{p-1}=1$となります。すると、$(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}$のすべての元$b$について、$b=a^m$となる$m$があって、
\begin{align}
b^{p-1}=(a^m)^{p-1}=a^{m(p-1)}=(a^{p-1})^m=1^m=1
\end{align}
より、$b^{p-1}=1$。
さて、$b$の位数が$n$であるとします。この時、$b,b^2,…,b^{n-1}$がすべて$1$にならないで、かつ$b^n=1$となります。よって、
\begin{align}
b^m\begin{cases} =1 & (mがnの倍数) \\ \neq 1 & (mがnの倍数でない) \end{cases}
\end{align}
です。特に$m=p-1=|(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}|$で矛盾が起きないためには、$|(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}|$が$n$の倍数でないといけない。
(参考文献)
雪江明彦著、代数学1 群論入門(代数学シリーズ)、日本評論社
雪江明彦著、代数学2 環と体とガロア理論(代数学シリーズ)、日本評論社