マス目上に書ける正方形(その4)~多項式環~

前回(こちら)は、整数$\mathbb{Z}$の「環」としての性質を見てきました。$+$や$\times$の性質や、素数$p$で割った余りのなす剰余環などです。今回はこの「整数$\mathbb{Z}$」ではなく、「整数係数の多項式$\mathbb{Z}[x]$」について、同じように論じられないか調べてみます。特に以下のことに注目します。

  • 整数係数多項式の環はどう組み立てるか?
  • 素数$p$にあたるものは、この場合何か?
  • 多項式環から剰余環をどう組み立てるか。
  • この剰余環は体であろうか?

整数係数多項式環$\mathbb{Z}[x]$の設定

整数係数の多項式の集合$\mathbb{Z}[x]$を考えます。この元として例えば
\begin{gather}
1,\ x,\ x+3\\
x^2,\ x^2+4x-7\\
x^4-2x^3+9x^2+19x-876
\end{gather}
などがあります。正式な定義は
\begin{align}
\mathbb{Z}[x]=\{a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_1x^1+a_0|n=0,1,2,3,…,\ a_i\in\mathbb{Z}\}
\end{align}
です。ここに「足し算/加算」と「掛け算/乗算」の2つを定義するのですが、加算「$+$」は
\begin{align}
\sum_{i}a_ix^i+\sum_{i}b_ix^i=\sum_{i}(a_i+b_i)x^i
\end{align}
のように定義します。例えば
\begin{gather}
(x^2-2)+(x+6)=x^2+x+4\\
(x^3+2x^2+4x+5)+(x^3+6x^2+2x+9)=2x^3+8x^2+6x+14
\end{gather}
のように計算します。積も
\begin{align}
\sum_{i}a_ix^i\times\sum_{i}b_ix^i=\sum_{i,j}a_ib_jx^{i+j}
\end{align}
のように定義します。例えば
\begin{gather}
(x^2-2)\times(x+6)=(x^2-2)(x+6)=x^3+6x^2-2x-12\\
(x-3)(2x-8)=2x^2-14x+24
\end{gather}
のように計算します。以上の2つの演算$(+,\times)$の下で、$\mathbb{Z}[x]$は「環」になります

整数係数多項式環$\mathbb{Z}[x]$

整数係数の多項式の集合$\mathbb{Z}[x]$は、以上の加算「$+$」と乗算「$\times$」の下で、「環」をなす。この環を「整数係数多項式環」という。この時、加法「$+$」の単位元は$0$、乗法「$\times$」の単位元は$1$である。
\begin{align}
f(x)+0&=f(x)\\
f(x)\times1&=f(x)
\end{align}

$\mathbb{Z}[x]$の元の”因数分解”と”素数”

整数において、その数の約数が$\pm1$かその数自身しかないとき、その数を素数といいます。($\pm1$は、乗法に関して逆元の存在する整数です。一般に、環の中でそのような元を「単元」といいます。)すべての整数は$\pm1$といくつかの素数の積で書き表せます。その表し方は$\pm1$の因子を除いて一意的です($p\leftrightarrow -p$という意味。)これを素因数分解といいました。
\begin{gather}
n=(\pm 1)p_1^{a_1}p_2^{a_2}\cdots p_m^{a_m}\\
6=2\cdot3\\
392=7^2\cdot 2^3
\end{gather}

同じような議論を環$\mathbb{Z}[x]$に関しても考えてみます。例えば$x^2+5x-14$や$x^3+1$は以下のように整係数多項式の積で書けます。因数分解ですね。
\begin{gather}
x^2+5x-14=(x-7)(x+2)\\
x^3+1=(x+1)(x^2-x+1)
\end{gather}
しかし一方で、整係数多項式で因数分解できないようなものも存在します。例えば
\begin{gather}
x^2+5x+9\\
x+8
\end{gather}
などです。このような、整係数多項式で因数分解できないものを素元といいます。すべての多項式がこのような素元の積($\times$単元)でただ一通りの書き方ができるのかというと、実はできることが知られています。
\begin{gather}
F(x)=f_1(x)f_2(x)\cdots f_m(x)\ \ (f_i:素元)
\end{gather}
一般に、環のすべての元がこのような一意的な素元分解を持つとき、そのような環は「一意分解環」といいます。

多項式の”倍数”と剰余環

ある多項式$P(x)$を、別の多項式$f(x)$で割った余り$r(x)$は以下のように定義できます。

  1. $P(x)$を、「商」となる多項式$Q(x)$と上の多項式を使って、以下のように分解する。
    \begin{align}
    P(x)=Q(x)f(x)+r(x)
    \end{align}
  2. しかし上の$r(x)$の取り方は、$Q(x)$を調整することでいろいろな多項式が出てきてしまう。そこで、$r(x)$の多項式の次数$deg(r(x))$が、$f(x)$の多項式の次数$deg(f(x))$よりも小さいものを代表としてとってくる。

例えば、$3x^3+4x+2$を$x^2+1$で割った余りを求めると、
\begin{align}
3x^3+4x+2=(x^2+1)(3x)+x+2
\end{align}
より、$x+2$です。筆算で書くと以下のようになり、余りが$x+2$となることが確認できると思います。
\begin{array}{rcc}
&3x\\
x^2+1&\overline{)3x^3+0x^2+4x+2}\\
&\underline{3x^3+0x^2+3x\hspace{2ex}}\\
&\hspace{15ex}x+2
\end{array}
このように、整係数多項式環$\mathbb{Z}[x]$を、多項式$f(x)$で割った余りのなす環を「$\mathbb{Z}[x]/(f(x))$」のように書きます。

さて、整数環$\mathbb{Z}$の時に、素数$p$の剰余環の定義として、以下のような

  • $0+p\mathbb{Z}=\{0+pm|m\in\mathbb{Z}\}$
  • $1+p\mathbb{Z}$
  • $2+p\mathbb{Z}$…

という集合からなる要素として考えました。この場合も
\begin{align}
r(x)+f(x)\mathbb{Z}[x]=\{r(x)+f(x)Q(x)|Q(x)\in\mathbb{Z}[x]\}
\end{align}
という要素からなるものと考えられます。この中に出てくる”$f(x)$の倍数の集合”「$f(x)\mathbb{Z}[x]$」をイデアルといいます。一般にはイデアルは以下の形をしています。
\begin{align}
f_1(x)\mathbb{Z}[x]+f_2(x)\mathbb{Z}[x]+\cdots f_n(x)\mathbb{Z}[x]
\end{align}
これを略して$(f_1(x),f_2(x),…,f_n(x))$のように書きます。

(補足)
整数環$\mathbb{Z}$のとき、2つの生成元からなるイデアル$(p,q)$は一つの元から生成されるイデアルになります。(g.c.d: 最大公約数)
\begin{align}
(p,q)=p\mathbb{Z}+q\mathbb{Z}=\rm{g.c.d}(p,q)\mathbb{Z}=(\rm{g.c.d}(p,q))
\end{align}
このように、どのようなイデアルも、1つの生成元でかけるとき、そのような環を「単項イデアル整域」といいます。$\mathbb{Z}$は単項イデアル整域ですが、$\mathbb{Z}[x]$はそうでないことが知られています。が、$\mathbb{Z}[x]$の「$\mathbb{Z}$」を体「$K$」とした$K[x]$は単項イデアル整域であることが知られます。例えば、$\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$は$p$が素数の時は体で、それを係数とした多項式の環(i.e. 多項式環を$p$で割った剰余環)「$(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})[x]=(\mathbb{Z}[x])/(p)$」は単項イデアル整域です。

$\mathbb{Z}[x]$の素元による剰余環は体になるか?

整数環$\mathbb{Z}$の場合、素数$p$をとって剰余環$\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$を作るとこれは「体」になりました。

整係数多項式環$\mathbb{Z}[x]$の場合も、素元$f(x)$を一つとってその剰余環$\mathbb{Z}[x]/(f(x))$を作ったときそれは「体」になるでしょうか?

結論から言うと、一般的にはなりません

ただし、例えば上の整数係数$\mathbb{Z}$をとある体$K$にしたとき、$K$係数の多項式環$K[x]$は素元$f(x)\in K[x]$を一つとってくると$K[x]/(f(x))$が「体」になります。具体的な例として、$K=\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$とすると、$(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})[x]/(x^2+2x+4)$などは体になります。

(補足)環$A$があるときに、この環が単項イデアル整域であると、その素元$p$を用いた剰余環$A/(p)$が体になります。

ガウス整数環$\mathbb{Z}[i]$と多項式の剰余環

さて、遠く離れてしまいましたが、私たちの目的は

素数$p$が整数$a$、$b$を使って$p=a^2+b^2$と表せるか

を探ることです。もしこう表せたとしたとき$p=(a+bi)(a-bi)$と因数分解ができるとみて、以下のような環を考えてみるとよいでしょう。($i$は虚数単位: $i^2=-1$)
\begin{align}
\mathbb{Z}[i]=\{a+bi|a,b\in\mathbb{Z}\}
\end{align}
要するに、複素数で、実部虚部がともに整数になっているものです。この環をガウス整数環といいます。(演算はよく知られた加算と乗算)

ガウス整数は、$i$の多項式とみなし、それを$i^2=-1$によって書き直したもの、つまり、$(i^2+1)$がでたらそれを0にすることで$a+bi$のような元をその代表とみなせます。例えば
\begin{align}
5i^3+2i^2-i+5&=(5i+2)(i^2+1)-6i+3\\
&=-6i+3
\end{align}
よって、整係数多項式環$\mathbb{Z}[x]$において、$x^2+1$で剰余をとった環と構造が一緒で、同型になります。
\begin{align}
\mathbb{Z}[i]\simeq\mathbb{Z}[x]/(x^2+1)
\end{align}

次回予告

次回、素数についての二平方和定理を証明していきたいと思います。つまり、

素数$p$があるとする。この時、
整数$a$、$b$で$p=a^2+b^2$で書ける。$\Leftrightarrow$$p$を$4$で割った余りが$3$以外

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