前回(こちら)は「整数$n$が、$n=a^2+b^2$の形で表せる$\Rightarrow$4でわって3余る数ではない」ということを示しました。今回からは、$n$が素数の場合についてその逆「素数$p$が、4でわって3余る数ではない$\Rightarrow$$p=a^2+b^2$の形で表せる」を示していきたいと思います。
これを示すのは意外と長くて難しく、以下のステップを踏んでいきます。
- 素数$p$だけに注目するのではなく、いわば「$p$の倍数に着目する」。特に、$p$で割った余り$0,1,…,p-1$に演算「$+$、$\times$」を入れることができて($\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$)、これに着目する。
- 整数は、一意に素因数分解することができる。$(整数)+i(整数)$($i$は虚数単位)の形も整数と同じような性質を持ち、一意的な素因数分解を持つ。
- ($(整数)+i(整数)$の形の元を扱うために、多項式の集合を考える。)
- $p$は4で割って3余るとき、$(pで割った余り)+i(pで割った余り)$なる集合(整数環)上で”素数”。そうでないとき、そのような集合上で”合成数”にあたる。
今回は主に「群論・環論・体論」をまとめようと思います。
群の定義
「集合」とは、「ものや数だったりの集まり」のことを指します。特に、以下では「数(や数式)の集まり」を考えましょう。
例えば、整数$\cdots,-2,-1,0,1,2,3,\cdots$の集まり$\mathbb{Z}$を考えましょう。ここに「$+$」という二項演算を考えると、この演算によって得られる結果は整数です。(「$+$に関して閉じている」といいます。)
\begin{align}
1+1=2,\ \ \ 3+5=8,\ \ \ 6+(-2)=4…
\end{align}
また、「$0$」という数字は特別で、どんな数字に足してもその値を変えません。このような元を$\mathbb{Z}$の単位元といいます。
\begin{align}
1+0=1,\ \ \ 2+0=2,\ \ \ 3+0=3…
\end{align}
どのような整数についても、足して0になるような整数があります。このような、その整数に対し、足すと$0$になるような数を逆元といいます。例えば、1の逆元は-1、-2の逆元は2です。
$\mathbb{Z}$に対して演算$+$を入れたように、一般に集合$G$に対し演算「$\cdot$」を入れて以下を満たすとき、$G$を群といいます。
集合$G$に対し、「$\cdot$」という二項演算($a\cdot b$のようなもの)があって以下を満たすとき、$G$は演算$\cdot$の下で「群」をなしているという。:
- すべての$G$の元$a$、$b$、$c$に対し、$(a\cdot b)\cdot c=a\cdot (b\cdot c)$ (結合則)
- すべての$G$の元$a$に対して、$a\cdot 0=a$となってくれるようなある元$0$(単位元という)がある。(単位元の存在)
- すべての$G$の元$a$それぞれに対応して元「$-a$」があって、それらの演算を行うと0になる。:$a\cdot(-a)=0$(逆元の存在)
特に以下ではすべて、これらに加えて交換法則$a\cdot b=b\cdot a$が成立するとする。(可換群)
上の定義では、演算は何でもいいよという意味で「$\cdot$」としたが、以下では「+」しか出てこないので「+」で書きます。
環の定義
整数では足し算「+」に加えて掛け算「$\times$」を考えると思います。このようなものが「環」です。
足し算に関しては群になっていました。
掛け算について、まず「$1$」を考えると、すべての数と掛け算をしても、その値を変えません。(乗法の単位元)
\begin{align}
2\times1=2,\ \ \ 5\times1=5,\ \ \ (-7)\times1=-7…
\end{align}
ただ、乗法「$\times$」の逆元は存在しないようなものが多くあります。(例えば2に対して$\frac12$を考えると$2\times\frac12=1$となりますが、$\frac12$は整数ではないです。)
また、分配法則も成立しています。この法則によって、筆算ができたり計算を簡単にできたりします。
\begin{align}
63\times3=(60+3)\times3=60\times3+3\times3=180+9=189
\end{align}
一般に、集合$A$があったときに二項演算が2つ($+$、$*$)定義されていて
- 「+」に関して可換群になっている。
- 「*」に関して「群っぽい」性質を満たす。(逆元はなくてよい)
- 分配法則を満たす。
を満たすとき、$A$は「環」であるといいます。
集合$A$に演算($+,\times$)が定義されて以下を満たすとき$A$は「環」をなすという。
- $A$は演算「+」に関して可換群をなす。
- $A$は演算「$\times$」に関して以下を満たす。
- すべての$A$の元$a$、$b$、$c$に関して$(a\times b)\times c=a\times (b\times c)$ (結合則)
- 乗法の単位元1($\in A$)がある。:$a\times1=a$
- 分配法則を満たす。
\begin{align}a\times(b+c)=a\times b+a\times c\\(a+b)\times c=a\times c+b\times c\end{align}
体の定義
最後に「体(たい)」を考えます。
先ほどの環の定義の中で
乗法「$\times$」に関して逆元がある必要はない
ということを言いましたが、乗法の逆元が存在するのが「体」です。例えば有理数の集合$\mathbb{Q}$を考えると、例えば2、-6、$\frac43$の逆元は
\begin{align}
2\times\frac12=1,\ \ \ -6\times\left(-\frac16\right)=1,\ \ \ \frac43\times\frac34=1
\end{align}
より、$\mathbb{Q}$上に逆元があります。
集合$A$に演算($+,\times$)に関して「環」をなしているとする。そのうえで$\times$に関して0以外が逆元を持つとき、$A$は「体」であるという。
次回は、「整数を$p$で割った余り」のなす群・環・体を考えます。